Fit to Standardは何か? Fit to StandardとBest Practiceの関係性は何? Fit to Standardでプロジェクトを進める注意点は?
といった疑問に答えます。
パッケージシステムを導入する際には、近年ではFit to StandardやBest Practiceといった用語を良く耳にします。パッケージベンダーやSierがごり押ししてくるFit to Standardのアプローチでシステム同にゅを進めて大丈夫か不安になります。さらに、Fit to Standardと併せてよく聞くBest Practiceとの関係性も不透明です。本記事でそのもやもやを解消します。
このFit to standardでの進め方を理解しないままプロジェクトを進めてしまうと、 ・自社の強みの業務を標準化してしまう ・標準化の仕組みを入れたところのまわりが、カスタマイズまつりになる ・結果、業務がわまわらない ・プロジェクト全体でみたらコスト増、開発期間が長くなってしまう というリスクがあります。
こうならない為にも、Fit to standard&Best Practiceという導入のアプローチや特徴を理解し上手く使えるようになる必要があります。
抑えておきたいポイントを以下の観点で解説します。
前半 ・Fit to Standardとは何か?Fit &GAPとの違い ・Best Practiceとは何か?
後半、本題 ・なぜ標準業務でビジネスがまわるのか? ・Bestって誰にとってBest?ベンダー提案のBestが本当に自社業務にとってもBestなの? ・Fit to Standardでのシステム開発で気を付けるべき事 →標準化していい業務領域と標準化してはいけない自社の競業優位性につながる業務を理解する
本題に入る前にもうすこしそもそもの「Fit to Standard」の言葉の定義等々を触れておきます。ちなみに、「Best practice」と「Fit to standard」は、ERP導入やビジネスプロセス改善において、特にSAPなどのシステム導入時に頻繁に使われる用語です。これらは互いに関連しつつも異なる概念の為、両方の理解が必要です。
定義などが入ってきやすいように簡単にまとめると、
Fit to standard・Best practiceの定義
Fit to standardは、ソリューションが定義する標準をなるべくそのまま入れるアプローチ
Best practiceは、SAP等のシステム導入に関係なく存在する業種・業界のベストな業務プロセスやモデル
このハイレベルな概念をふまえ詳細を見ていきましょう。
フィットスタンダードの読み方
英語表記で、Fit to Standardはフィトゥスタンダードを読みます。F2Sと略されることもあります。
「Fit to Standard」のアプローチとは
ERP等のパッケージやクラウドソリューションの導入時、そのシステムが提案する標準の業務プロセスを使用し出来る限りカスタマイズを抑えるアプローチです。Fit to standardは、特定の業務要件やプロセスが、ERPシステム(例: SAP S/4HANA)に組み込まれている標準機能に適合するかどうかを検討するアプローチです。
つまり、企業が自社独自のカスタマイズを行う前に、まずは提供されている「標準機能」に自社の業務プロセスを合わせられるかを評価することを指します。Fit to standardの考え方では、システムの標準機能に可能な限り準拠し、カスタマイズや独自開発を最小限に抑えることを目指します。これにより、システム導入の複雑さやコスト、メンテナンスの負担を軽減します。
システムを作っていた時代では、「Fit &Gap」のアプローチが主流でした。「Fit to Standard」と「Fit & Gap」の違いに関して以下の観点で解説します。
アプローチの違い 導入スピードとコスト 優先事項の違い
アプローチの違い
Fit to Standard: 既存の業務を標準プロセスに適合させる。カスタマイズは最小限を狙う。 Fit & Gap: 標準機能と業務要件のギャップを分析し開発を行う。 Fit to Standardは業務を標準プロセス・システムに合わせる、Fit & Gapはシステムを既存業務に合わせるイメージです。
カスタマイズの考え方
Fit to Standard: カスタマイズを極力避ける。 Fit & Gap: ギャップがあればカスタマイズする。
導入スピードとコスト
Fit to Standard: 導入期間が短く、コストが低い。 Fit & Gap: ギャップの大きさによって導入期間やコストが増加。
優先事項の違い
Fit to Standard:ビジネスプロセスの標準化を目指し、迅速な導入とコスト削減を重視。 Fit & Gap :独自の業務プロセスを重視し、対応するためにカスタマイズが必要な場合に適する。
つまり、自社にとって業務・ビジネスがどこを目指すのかで「Fit to Standard」と「「Fit & Gap」どちらを目指すのか決める必要があります。
Best Practiceとは?
Best Practiceとは何か?
Best practiceは、特定の業界や分野で長年にわたって成功を収めた企業や組織の最適な手法やプロセスのことです。ベストプラクティスは、業界の経験や成功事例に基づき、効率的で効果的な方法として広く認知されているものであり、業務やシステムに取り入れることでリスクを減らし、スムーズな導入を目指すことができます。たとえば、SAPが提供するベストプラクティスには、製造業、流通業、小売業など特定の業種向けのテンプレートや業務プロセスが含まれており、顧客はこれらをベースにシステムを設定します。
「Best practice」と「Fit to standard」の関係性
「Best practice」が業界で最適とされるプロセスのモデルであり、「Fit to standard」はそれを適用できるか、自社の業務を標準機能に合わせて調整するかの判断基準になります。
Best practiceは、特定の業界や業務プロセスにおける「理想的な方法」を指し、導入するERPシステムがその手法に基づいて構築されていることが多いです。たとえば、SAPのベストプラクティスでは、さまざまな業種に対する事前設定済みのプロセスが提供されています。
Fit to standardは、こうしたBest practiceや標準機能が自社の業務プロセスに適合するかを検討する段階です。フィットする場合は、標準機能をそのまま利用し、もしフィットしない場合でも極力標準機能に寄せて業務プロセスを改善することが推奨されます。
Best Practiceの種類
世の中には、様々なBest practiceが存在します。幾つかご紹介します。
ビジネスプロセスのBest practice サプライチェーン管理(SCM): 需要予測や在庫管理、物流最適化のプロセスで効率を最大化する方法。 顧客関係管理(CRM): 顧客のデータを効果的に活用して、リテンションやエンゲージメントを向上させる手法。
ITおよびテクノロジーのBest practice ソフトウェア開発: アジャイル開発やDevOpsなどのプロジェクト管理手法が、効率的な開発プロセスとして広く採用されている。 サイバーセキュリティ: インシデント対応計画やデータ保護のための暗号化などがベストプラクティスとされる。
プロジェクト管理のBest practice PMBOK(Project Management Body of Knowledge): プロジェクトマネジメントにおけるベストプラクティスを体系化したフレームワーク。 PRINCE2(Projects IN Controlled Environments): プロジェクトの進行管理と制御を重視した手法。
マーケティングのBest practice デジタルマーケティング: SEO(検索エンジン最適化)やコンテンツマーケティングが効果的な方法とされる。 ソーシャルメディア戦略: エンゲージメントを高め、ブランド認知度を向上させるための最適な投稿タイミングやコンテンツ形式。
人材管理のBest practice 採用プロセス: 候補者のスクリーニングやインタビュー方法の最適化。 従業員エンゲージメント: フィードバックループやパフォーマンスレビューの定期実施。
製造業のBest practice リーン生産方式(Lean Manufacturing): 無駄を最小限に抑える生産管理手法。 品質管理: トヨタ生産方式やシックスシグマなどの手法。
ChatbotGPT
この様に世の中には様々なBest practiceが存在します。Fit to standardでは、このような様々なBest practice等をソリューションベンダーが活用したり、マーケットシェアのソリューションではこれらを元に自社独自の標準業務を定義したりし、それに対応するソリューションを提供しています。
Preconfigured Solutions: SAPには、あらかじめ設定されたソリューション(プリコンフィギュレーション)が提供されており、これを基に組織が短期間でERPを導入できるようサポートされています。SAP Activateの主な構成要素: SAP Best Practices: 導入を迅速化するための事前設定された業務プロセス。 SAP Guided Configuration: ユーザーがステップバイステップで設定を進めるためのガイド付き設定ツール。 SAP Agile Methodology: アジャイル手法を取り入れたプロジェクト管理手法で、柔軟性と迅速な導入を支援。
ERPプロジェクトは長期間に及ぶものが多く、いつしかそもそも何のためにプロジェクトをしているか見失ってしまうプロジェクトもあります。Fit to Standardでシステム導入をする事は、自社の強みではない業務を業界標準に合わせコストを削減したり、システムをシンプル化し運用コストを下げる等本来は目的があるはずです。しかし、いつしか、Fit to standard自体が目的になってしまうケースもあるので注意が必要です。
ソリューション選定=ベストプラクティス選定の為精査が必要
ソリューションが提供するFit to standardはその企業がもとにする業界のプロセスのベストプラクティスがベースになります。その為、ソリューション選定はシステムを選定するというよりも、その仕組みで採用する提供されるベストプラクティスが自社のビジネス・自社のプロセスの目指す姿にフィットしているか精査が必要です。よく売れているからと言う理由であるERP等を選定しても、自社の業種・業界に適応するベストプラクティスを提供していない、もしくは、弱いといった事態になりかねません。
ソリューションに合わせ業務を合わせるのが前提
Fit to standardを進めるという事は、自社の既存業務プロセスを捨てる事を意味します。したがって、経営層は賛同しても、今その業務を実施している現場の方には慣れ浸しんだプロセスから離れる生みの苦しみは必ず発生します。
チェンジマネージメントが重要
この変化に対応するために、Fit to standardのプロジェクトでは、チェンジマネージメントが必要です。どのように、変化を促し、考え方を変え、文化を変え、ビジネスプロセスを変化するのか仕掛けていく必要があります。従来のFit & Gapではビジネスプロセスは変化しない事が前提になるので必要ありませんでしたが、ビジネスプロセスの変化が前提の場合、チェンジマネージメントの準備が必要です。
Best Practiceで進めると家電製品を買ってくる感覚で簡単にシステム導入出来ると勘違いする人がいます。システム的なカスタマイズは少なくなりますが、Fit to standardに合わせる為、自社の業務部門・働く人の変化は大きくなり、よりビジネス目線での変化幅はFit & Gapで進めるよりも大きくなります。システムに変化が少ないので簡単と勘違いはNGです。
自社のビジネスケーパビリティーの理解が必須
Fit to standardでシステムを導入する場合、自社のビジネスケーパビリティーのどの領域はコモディティ化させてもOKな領域なのか?そうではないのか?の理解が非常に重要です。この理解や整理なくシステム導入した場合、本当はシステムにより他社と同質化すべきではないビジネスプロセスを同質化してしまうリスクがあります。
プロジェクト全体でソリューションをデザインする
ERP等ばかりfit to standardで入れるぞ!と意気込み、カスタマイズを周辺のローカルシステムに押し付けては本末転倒です。これでは、結局プロジェクトのコストもランニングのコストも抑えることはできません。こうならない為に、自社の強みにならない標準化できる業務は、標準化する・シンプルにするというマインドチェンジが必要です。このマインドチェンジをシステム視点で実施するのではなく、プロジェクト全体で推進し変革していく必要があります。
Fit to Standrd?Best Practiceとは何か?プロジェクト開始前に理解しておきたいメリット・注意点まとめ
これまで解説した内容を纏めていきます。
・Fit to Standardとは何か?Fit &GAPとの違い Fit to Standard: 既存の業務を標準プロセスに適合させる。カスタマイズは最小限を狙う。 Fit & Gap: 標準機能と業務要件のギャップを分析し開発を行う。 ・Best Practiceとは何か? 「Best practice」はSAP等のシステム導入に関係なく存在する業種・業界のベストな業務プロセスやモデル